ソラタ
「固定翼ドローンってマルチローターと飛び方が根本的に違うって聞いたけど、揚力の出し方が違うの?」飛行原理の違いと向いている用途を整理します。
この記事の要点
固定翼ドローンは飛行機と同じ原理(翼による揚力)で飛行する。マルチローターと比べて長時間・長距離の飛行が得意だが、垂直離着陸ができず着陸には滑走路や広い場所が必要。
VTOL(垂直離着陸)型は固定翼の長距離飛行能力とマルチローターの垂直離着陸能力を組み合わせた複合型で、この欠点を解決している。
ドローンというとプロペラを複数持つマルチローターを思い浮かべる人が多いですが、無人航空機には飛行機と同じ固定した翼(主翼)で飛行する固定翼ドローンも存在します。
固定翼ドローンはマルチローターとはまったく異なる飛行原理を持ち、長距離測量・広域農地調査・森林モニタリングなど特定の用途で高い能力を発揮します。学科試験でも固定翼の特徴とマルチローターとの違いが問われますので、飛行原理から整理しておきましょう。
ザックリ言うと、固定翼ドローンは「空飛ぶ模型飛行機」です。翼で揚力を生み出して飛ぶため、プロペラが全力で回転しなくても飛び続けられるのが強みですが、止まることができないのが弱みです。
固定翼機が空を飛べるのは翼(主翼)が生み出す揚力のおかげです。翼の断面形状(翼型・エアロフォイル)は上面が凸状に膨らんでいます。
機体が前進すると翼の上面を流れる空気は下面より長い距離を速く流れるため、ベルヌーイの定理により上面の気圧が下面より低くなり、上向きの力(揚力)が発生します。
| 力の種類 | 方向 | 発生要因 |
|---|---|---|
| 揚力(Lift) | 上向き | 翼の上下の気圧差 |
| 推力(Thrust) | 前向き | プロペラ(エンジン・モーター)の回転 |
| 抗力(Drag) | 後ろ向き | 空気抵抗 |
| 重力(Weight) | 下向き | 機体の重量 |
飛行するためには「揚力 ≥ 重力」「推力 ≥ 抗力」の状態を維持する必要があります。翼で揚力を生み出すため、マルチローターのように全モーターが常に最大出力に近い状態で回転する必要がなく、エネルギー効率が格段に良いという特徴があります。
固定翼ドローンとマルチローターを主な特性で比較すると以下のようになります。
| 特性 | 固定翼ドローン | マルチローター |
|---|---|---|
| 飛行原理 | 翼による揚力 | プロペラの推力で直接浮く |
| 飛行速度 | 速い(時速50〜150km程度) | 遅い(時速30〜80km程度) |
| 航続時間・距離 | 長い(数十分〜数時間) | 短い(10〜30分程度) |
| エネルギー効率 | 高い | 低い(常に推力が必要) |
| 垂直離着陸(VTOL) | 不可(通常型) | 可能 |
| ホバリング | 不可 | 可能 |
| 離着陸に必要なスペース | 広い滑走路・広場が必要 | 狭い場所でも可能 |
| 操縦難易度 | 高い(失速リスクあり) | 比較的容易(自動化しやすい) |
固定翼は「長距離・長時間・広域」が得意、マルチローターは「狭い場所・精密な位置制御・ホバリング」が得意という役割分担があります。
固定翼ドローンの特性(長時間・長距離飛行・高効率)を活かした主な用途は以下のとおりです。
| 用途 | 固定翼の強みが活きる理由 |
|---|---|
| 広域測量・地図作成 | 1回のフライトで広大なエリアをカバーできる |
| 農地・林地調査(植生調査) | 数百haの農地を短時間で撮影できる |
| 長距離パイプライン・送電線監視 | 直線的に長距離を効率よく飛行できる |
| 捜索・救助(広域) | 広いエリアを素早く探索できる |
VTOL(Vertical Take-Off and Landing:垂直離着陸機、教則では「パワードリフト機」と分類される)は、固定翼の欠点(垂直離着陸できない・滑走路が必要)をマルチローターの機能で補った複合型ドローンです。
離着陸時はマルチローター機能(垂直推力のモーター)で垂直に上昇・下降し、巡航時は固定翼として効率よく飛行します。このため、VTOLは固定翼の長距離・長時間飛行の利点と、マルチローターの垂直離着陸の利便性を両立できます。
固定翼とVTOLの違いは「垂直離着陸ができるかどうか」であり、VTOLは固定翼機の一発展形といえます。
固定翼機には失速(Stall)という固有のリスクがあります。失速とは、翼の迎え角(翼と気流のなす角度)が大きくなりすぎたり、速度が最低必要速度(失速速度)を下回ったりすることで、揚力が急激に失われる現象です。
| 失速の原因 | 結果 |
|---|---|
| 速度が失速速度を下回る | 揚力を失い急降下・墜落 |
| 迎え角が大きくなりすぎる(急激な引き起こし) | 翼上面の気流が剥離し揚力消失 |
| 強い向かい風での急減速 | 相対的な対気速度が低下して失速 |
マルチローターには失速という概念はありませんが、固定翼では常に最低速度以上を維持する必要があります。これが固定翼の操縦難易度が高い主な理由の一つです。
固定翼ドローン(飛行機)の機体特徴(翼による揚力・長距離飛行・失速リスク)とパワードリフト機の概要については、無人航空機の飛行の安全に関する教則(下図)に示されています。
学科試験では「固定翼とVTOLの違い」や「固定翼の失速リスク」が問われることがあります。VTOLは固定翼の一種(の発展形)ですが、垂直離着陸機能を持つ点が通常の固定翼と異なります。
また「ホバリングができない」のが固定翼の特徴であり、停止したい場合は旋回を続けるか着陸するしかありません。
混同しやすい用語
固定翼ドローン(通常型):翼の揚力で飛行する無人航空機。垂直離着陸はできず、滑走路や広い場所が必要。
ホバリングも不可。
VTOL(教則名称:パワードリフト機):固定翼の飛行効率と、マルチローターの垂直離着陸能力を組み合わせた複合型。離着陸はマルチローターモード、巡航は固定翼モードで飛行する。教則では「パワードリフト機」として分類される。
Q1. 固定翼ドローンが飛行するために必要な力(揚力)はどのように発生するか?
A1. 翼型の形状により、翼上面の気流速度が下面より速くなり、ベルヌーイの定理により上面の気圧が低くなることで上向きの揚力が発生する。
Q2. 固定翼ドローンとマルチローターの最大の違いは何か?
A2. 固定翼はホバリングができず垂直離着陸も(通常型は)不可。マルチローターは垂直離着陸・ホバリングが可能だが、航続時間・距離は短い。
Q3. 固定翼ドローンの失速とはどのような現象か?
A3. 速度が失速速度を下回る、または迎え角が大きくなりすぎることで翼の揚力が急激に失われる現象。墜落のリスクがある。
固定翼ドローンは翼による揚力を利用して飛行し、長時間・長距離・広域の飛行を得意とします。一方で、ホバリングができず垂直離着陸も不可であるため、着陸には滑走路や広い場所が必要です。
VTOL型はこの欠点を解決し、固定翼の効率とマルチローターの利便性を組み合わせた機体です。また、速度が失速速度を下回ると揚力を失う「失速」は固定翼特有のリスクであり、常に必要速度以上を維持することが安全飛行の基本です。
関連記事:ドローンの機体種類と特徴|マルチローターの飛行原理
参考資料
・無人航空機の飛行の安全に関する教則(国土交通省 第4版)
・無人航空機操縦者技能証明に係る学科試験の科目について(国土交通省)
※ この記事の制度確認日:2026年5月
学科試験対策|管理人の一言
固定翼ドローンの飛行原理は「翼型→ベルヌーイの定理→揚力発生」という流れで説明できるようにしておきましょう。マルチローターとの比較では「長時間・長距離飛行が得意だがホバリングができない」「垂直離着陸には滑走路が必要」という点が頻出です。
また「失速とは速度が一定以下になると揚力を失う現象」という定義も押さえておきましょう。
なお、教則では固定翼とマルチローターの両機能を備えた複合型の無人航空機を「パワードリフト機」と分類しています(一般に「VTOL」と呼ばれる機体)。試験では「パワードリフト機」という用語で問われる可能性があるため、どちらの名称も押さえておきましょう。